Kuzefield strings クゼフィールド弦楽アンサンブル(いわき市)

ミュンシュ・ボストン仙台公演 (1960)

 

数あるアメリカのオーケストラの中で、ミュンシュ・ボストン交響楽団は最も「アメリカらしくない」オーケストラとして人気があった。それは、指揮者シャルル ミュンシュの個性、とりわけほのかにフランスの香りを感じさせる音の色あい、それにほとばしる情熱。ボストン交響楽団の演奏技術の巧みさとあいまって、どの演奏でも生気にあふれた迫力あるサウンドを聞くことができた。
 ところで そのミュンシュ・ボストンは私が生で聞いた初めての外国のオーケストラでもある。中学生の当時、まだ小学生で小さかった妹を連れて、家のすぐ近くの公会堂へ歩いていった。入場料はたしか2000円。当時としても、とんでもなく高い額であったと思う。(父の大学講師としての給料は三万円そこそこ、よく出してくれたものだ) ちょうど雨のつづく時で、しけ寒い夜であった。楽屋が狭いのか、古いホールの廊下では楽員がズボンを履き替えたり、楽器の練習をしたりで、入場しながらも何とも妙な風景。子供心にもちょっぴり遠来の楽員が気の毒に思えた。
 プログラムはブラームスの第二交響曲がメイン。ほとんど最前列の席から見るミュンシュの横顔は 紅潮した頬に白い髪、それに少し風邪気味なのか時々高い鼻から水滴が落ちるのが見えた。不思議なことに、ファーストバイオリンのすぐ前で聞いているにもかかわらず、一人一人のバイオリンの音は全くせず、しなやかな、まるで風が吹き抜けるような弦の音がホール一杯に広がってゆく。とくに、あの渋いブラームスの第一主題では森のささやきのような厚みのある深い音色。全てが暖かく穏やか。あのレコードで聞く たたみかけるような雰囲気は控え目に抑えられ、「これがプラームスの響きか! 」と はじめてわかったような気がした。
 満員の聴衆のアンコールに応え、サッと指揮棒が振り下ろされて壮大に響いてきたのはなんと「ニュルンベルグの名歌手・前奏曲」! 他の都市での公演でのプロクラムの一つで好きな曲。内心うらやましく思っていたのでミュンシュのサービスに感激。そして止むことのない拍手に再びオーケストラが静かに、ピアニッシモの弦を響かせて流れてきた名曲、バッハの「アリア」! 舞台一杯に拡がるストリングの美しさ! 厳しい旋律線と大理石のような輝き! どんな曲でも真剣に、ひたむきに演奏するボストン交響楽団の奏者。
 この夜の公演に行けた方々は本当に幸せであった。(Q)



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